休養をとるということ

 早くも即効性の薬が効いたのか、それとも気が楽になったのか、今日はずいぶんすっきりさわやかな気持ち。
 なんだ、意外に元気じゃん? わたし?

 お洗濯もした。
 午前中にホームセンターに買い物に行って、南側のベランダの窓全面にすだれを取り付けた。脱・クーラー生活を開始。
 (すだれが1枚248円で、サッシに取り付けるための金具が1セット398円。窓4枚全部に取り付けて、しめて2,584円。クーラーより遥かに快適になりました(^^v)

 運転もできた。
 ペースはゆっくりだけど、家事もできた。
 ときどきはぼーっと天井を見上げて転がってもみる。

 パソコンデスクの前に、はがきと封筒が何枚も積み重ねてあったのを引っ張りだしてみた。
 『引っ越しました』とか『子どもが生まれました』とか、友達からもらった手紙にも返事を書けないままだった。
 のんびり、書こうかな・・・と思い始めました。

 仕事は、通勤を避けて在宅マイペースに切り替えて行く準備をします。

 『休養をとる=何もしない』ってことではないと思う。

 気持ちが休まるような暮らし方を、自分で無理なく続けていきたい。

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宣告

 朝、携帯のアラームが鳴った。
 スヌーズで何回か止めた。
 重い。
 だるい。
 「何時に出るの?」
 彼が心配そうに手を握ってくれた。
 「8時半に出て、8時54分の電車に乗る・・・7時50分に起きる」
 「うん、じゃ、そのくらいに起こすからね」
 寝返りをうった。全身の力が抜けて、すごく重い。おふとんにめりこんでいる感じがする。

 「病院に行ってきたら・・・? 僕、今日は一緒に行けないから、悪いけど・・・」
 「うん・・・」
 この間、かかりつけの内科でまた言われたから。
 『血液検査の数値は正常です。甲状腺の薬はちゃんと効いていますし、副作用も出ていません。それでもそんなに全身倦怠感があったり、辛いというなら、心療内科を受診されることをお勧めします』
って。

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 今日の、この辛さ。
 夏バテ?
 それなら根性と気力で頑張れる。
 でもそれがない。
 たぶん限界。

 ある心療内科に行った。
 府中駅前にあるきっちりしたところだ。去年の9月に2回くらい行ったんだけど、そのときにはまだ大丈夫でしょうということになって、何の病名もつかず、処方も加療もなく、様子を見てくださいねで終わった。

 今日は、違った。

 はっきりと、先生がおっしゃった。
 「鬱病の条件が揃っていますよ。すぐに休養した方がいいです。休めますか?」
 「休んでいいんでしょうか」
 ぽろぽろと涙が出てきた。
 「医療の立場からは、すぐに休養を取るべきだと思います。診断書を出しますよ。薬も出します。即効性のある抗鬱薬と、安定剤です。生理が無くなったり、乳房が張ったりする副作用があるかもしれませんが薬をやめれば無くなる程度の副作用です」

 病名:鬱病
 平成20年8月20日から同年9月19日まで、休養と加療を要する。

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 
 陸さんやせんちゃんや、皆のことを考えて、このいきなりの休職だけは避けたかった。
 でも原因があいまいなまま、だらだらと休むわけにも行かない。
 元はと言えばわたしのせいなんだろうけど、もう限界まで来てしまった。

 しばらく、休みます。 
 

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休んだのに

 朝、枕もシーツも、わたしの形に湿っていた。
 明け方、彼が
 「寒い・・・」
と寝言を言ったので、わたしのタオルケットもかけてあげた。
 わたしは、暑かった。全身べっとりと汗をかいて、たびたび目が覚めて、よく眠れなかった。

 「おはよう・・・あれ? 寒くなかったの?」
 起き上がった彼が2枚掛けられたタオルケットを見て驚いた。
 「わたし・・・? 暑くて、むしろしんどかったくらい・・・」
 「暑い?」
 彼がわたしの手を握った。彼の手はひんやりと心地よかった。
 「熱いよ。手。熱あるんじゃない? 首のところ、すごい汗」
 「ごめん、もうちょっと寝てていい・・・? 朝ごはん、ごめんなさい」
 「ごはんはいいけど、大丈夫?」
 「んー・・・休んでる。。。」

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 彼が居間にクーラーをかけて枕を持って行ってくれたので、タオルケットを1枚もって移動した。
 涼しい風が落ちてきて、やっと心地よく眠りに落ちた。
 昨日、重い植木鉢をいくつも持ったせいで腰が痛い。湿布をぺったりと2枚貼った。

 昨日はまだ、陸さんの仕事を誰がどう分担して乗り切るか、決まらなかった。
 陸さん以外だれも把握できていない、というのが本当だ。おかみさんが引き継ぎリストを預かって話を聞いているはずだけど、たぶん実務レベルのことは分かっていないだろう。
 せんちゃんのことも気になる。明日彼女が出勤したら、多分ひと騒動あるだろう。

 わたしに何ができるだろう?
 陸さんの仕事のフォロー?
 せんちゃんの気持ちのフォロー?

 ・・・いや、ムリ。
 9月から正社員を外して週3日程度に勤務を減らして欲しい、なんて相談をしているくらいだ。ここで他人の仕事を抱え込むなんて・・・。

 ギブアップです。
 明日はなんとか、会社に行かなくちゃ。
 休もう。
 ・・・休んでるけど・・・回復しなくっちゃ。

 

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手が止まった

 今朝は1時間半早く出勤して、お店の開店準備をした。
 今日は、陸さんがもう来ない。
 せんちゃんは北海道の実家に帰省中で、飛行機のチケットがどうしてもとれず、今日はお休みをとっている。
 開店準備に出られるスタッフは、ボクさんとサリーちゃんとわたし、のみ。
 6日間の盆休みを乗り切るために、お店中の植物を移動してスプリンクラーがかかるようにしたり、店内の植物に自動灌水のドリップチューブをつけたりしてあったのだ。
 11日のお盆前、この準備をするのに5人で軽く2時間かかった。
 3人じゃ、どれだけシャキシャキ頑張っても・・・知れている。

 なんとか11時過ぎにすべて終えて、デスクについた。
 CADで図面を描いていたんだけど、どうも進まない。モニターを見つめて、手が止まってしまった。わたしの売りは『早くてきれいで正確』なのに。簡単な図面なのに、進まない。
 頭がぼーっとする。
 目も回っている。
 また・・・しんどいなぁ。。。
 何度か、額に手を当ててデスクに肘をついてしまった。

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 昼過ぎ、ボスが来ていきなり怒鳴った。
 「なんだよ?! 小娘来てねーのか! あいつ、もういらねーよ。切れよ、切れ!」
 せんちゃんが休みをとったからだ。
 そのあとも、陸さんの仕事の引き継ぎの件で相当もめて、荒れた・・・。
 盆明け早々波乱の一日。
 朝早かったせいもあって、暗くなる頃にはすっかり疲れてしまった。
 今日は早く、帰ろう・・・

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明日からお休み

 明日から盆休み。
 さっさと仕事を片付けて帰りたいところだけど、急な仕事がどっさり(T_T)
 帰るどころではなくなってしまい、10時過ぎまでかなり必死・・・だいたい今日は、この間ボスが忘れてきた会社携帯を銀座のバーまで取りに行かされたりして。シゴトニナラナイ〜〜〜っっ!

 会議が終わり、ようやく9時頃、バラバラと皆帰りだした。残っていたのは、おかみさんと陸さん、必死の形相でパソコンに向かうボクさんとわたし。
 昨日の陸さんからの電話が気になっている。陸さんが時間つぶしのような仕事をやっているのに気づいている。途中何度か目が合った。
 やがて、陸さんがおかみさんに呼ばれて応接室に入って行った。
 一度出てきて、陸さんが担当する物件やら仕事の引き継ぎをまとめたリストを持ってもう一度応接室に入って行った。
 (もちろん引き継ぎリストなんて作っていたことは、皆は知らないはず。・・・いや、ひょっとしたら気づいていたかもね?)

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 駅に向かう帰り道。
 陸:「渡したよ。これで the end」
 ゆ:「引き止められなかった?」
 陸:「引き止められたよ・・・おかみさんはけっこう親身に話を聞いてくれたから、ちょっと申し訳ない気持ち。ボスは絶対に頭下げないから、おれの方からボスに謝れば多分やり直せるんじゃないか、とか、せっかく入ってくれたのに辞めて行ってしまうひとばかりだからボスももう少し我慢しなくちゃいけないのに・・・とか、言ってた」
 ゆ:「そう」
 陸さんはロッカーに置いてあった私物を大きなかばんに入れて持って帰ってきたけれど、スリッパはいつも通り靴箱に置いてきていた。
 陸:「今日付けかもしれないし、8月いっぱいってことになるのかもしれない」
 ゆ:「じゃ、こうやって一緒に帰るのも今日で最後かもしれないね」
 陸:「これからは国分寺で待ってるよ。『おーい、まだ〜?』って、プライベートの携帯にメールしてやるよ」
 ゆ:「きっと、こっそりお手洗いで、メール打つよ? 『まだ会社出られない〜〜』って」
 陸:「『なんだよ、こっちはもう3杯目ー』なんてな。・・・最後まで、あなた以外には誰にも相談せずに退職届出しちゃったな。せんちゃんのことが気になるよ」
 ゆ:「盆明け出勤したら、突然『陸さんが辞めました』ってことになるんだもんね…」
 陸:「サリーちゃんには、ボスが全部バラしていそうだな。ボクさんにはおかみさんが言ってるんじゃない?」
 ゆ:「そう? おかみさんは軽はずみには話してないと思うよ。ボスは分からないけど」
 陸:「ま、おれはこれですっきりしたから。後はあなただよ。しっかり詰めに入りなよ。でないと、ずるずる延ばされるぞ」
 ゆ:「うん。頑張るよ」

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 結局、おかみさんからメールが来たそうだった。

 陸さん、本日、退職。

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彼には不愉快な着信

 今日は定休日。
 わたしのプライベートの携帯が鳴ったのは、午後7時過ぎ。
 ゆ:「はい? あぁ、おつかれさま。・・・えっ・・・そう。うん。うん、で・・・?」
 聞き手側の電話なんて、こんなもんでしょ?

 陸さんから。
 ボスに
 「話したいことがあるので」
と話しかけたら、
 「話は、ありません」
と拒否されたそうだった。
 陸さんは、明日、退職届をおかみさんに渡しに行く、と言った。

 ゆ:「そう。じゃ早ければ明日なの?・・・分かった。・・・ん。まぁ突然だけど・・・今までもみんな突然だったからね、あとはなんとかなるよ・・・うん、大丈夫」

 結論によっては、明日、いきなり陸さんがいなくなる。
 本当は・・・大丈夫なんかじゃない。いなくなったら困るよ、って言いたい。そう思いながら、携帯の通話が切れる音を聞いていた。

 彼:「どうかしたの?」
 ゆ:「陸さんが辞めるかも。ボスに話そうとしても取り合ってもらえなくて、いい加減うんざりって」
 彼は眉根を寄せた。
 彼:「それを、陸さん本人がゆふに電話してきたの?」
 ゆ:「うん」
 それっきり、彼は黙ったままだった。
 分かっている。
 知ってる。
 わたしが、会社のことや同僚のことを気にかけることを心配してくれていることを。
 同時に、わたしの負担になる同僚達とはできれば縁を切って欲しいと思っていることも。

 それができていたら、多分わたしは違うひとになっているんだろうと、自分では思うのだけれども。

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アイ・コン

 なんだか(^-^;

 笑っちゃいそうなのを抑えるのに、ちょっと神経を使う今日。

 陸さんが仕事をぱたぱたと片付けながら、こっちを見るのだ。無表情で。
 視線が合って、笑ってしまいそうになって目を伏せる。
 ダメ、ダメ。

 なんだか、笑えてきて。

 秘密

 あぁなんだか、変な連帯感・・・

 陸さんのアイコンタクトで、わたしも仕事をまとめ始めた。
 
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

 少し前にタイムカードを押して出て行った陸さんから、わたしのプライベートの携帯にメールが入った。
 『せんちゃん、誘える? 次の駅で待ってる』
 ゆうべ、せんちゃんのこと心配で相談したから、ストレスを発散させようってつもりだ。
 『誘ってみるよ。待ってて』
 せんちゃんに耳打ちしたら、彼女はにっこりした。
 今日は、隣の駅で3人呑み。カラオケにも(^^)

 せんちゃんはすっきりして帰って行った。
 陸さんがもう辞める気でいることをわたしは知っている。それでも残して行く気持ちがあることも、共感できる。
 陸:「せんちゃんには、悪いと思うよ・・・」
 悪いんだけど、放っておけない気持ちがあって、今日呼び出して話を聞いて、励ましたわけでしょ?
 せんちゃん、がんばれ。新卒早々ちょっと恵まれない職場で悪いけど、頑張ったあなたにきっと、花が咲くよ。

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せんちゃんも?

 朝。

 これ、おかしい・・・体が重い。辛い。

 夕べは久しぶりに朗らかに陸さんと呑んで笑ってきたけど、早く帰った。
 でも違う。お酒が残るだるさとは違う。
 さんざん今まで呑んで、失敗もしてきたから。(自慢にはならないけど)
 だいたい、二日酔いとかまだ酔い酔いというたぐいのしんどさは、よくよく知っている。そんなのでは全然なくて・・・

 ぐったりと重くて。息苦しくて。
 
 どうしたんだ?

 と思いながら、とにかく会社のマロンさんに『休ませて欲しい』と電話をした。

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 心配事があって、メールした。
 『夕べは久しぶりにおいしいお酒を呑んだのにね。気持ちに比べて体は本調子ではなかったみたいです。今日はダウンしてしまってすみません』
 陸さんに、である。
 『酒が残るほど呑んでないでしょ? 大丈夫?』
と、きた。ありがたいなぁ、と、思いつつ。
 『お酒は残ってないよ、二日酔いもなく、すっきり(^^)。それより、気になるのはあなたの方だけど。昨日おかみさんに話したんでしょ? 今日はボスの風当たりが強いんじゃない?』
 そうしたら、
 『ボスは今日は来ないってさ。おれの方は進展なし。もう少し待ちかな。それよりせんちゃんが休んでる、2日目』
と来た。

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 夜、せんちゃんに電話してみた。
 すると。
 せん:「支度して、お化粧して、会社に行こうとすると、おなかが痛くなるんです・・・」
と言ったのだ。

 おやおや・・・新人のせんちゃんも、かい。。。

 ともかく、いろいろ思いを聞いた。
 せんちゃんと2人行動するのは陸さんだ。せんちゃんとの電話を切った後、陸さんに電話をして話した。
 陸:「わかった、気を配るよ」
 ゆ:「頼むね」
 陸:「でもさ、おれ、もう・・・」
 ゆ:「言わないで。分かってるよ」
 陸:「・・・うん」
 気を配りたいけど、気になるけど、もうこれ以上付き合いきれない気持ちの先輩達。陸さんがせんちゃんのために何かできる期間は長くない。せんちゃん、ごめん。

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ふたり連続

 今日は、新人のせんちゃんが休んだ。朝、会社に電話があったのだ。
 せんちゃんは時々休む。わたしは、彼女も生理が辛い体質なのかな、なんて思っていた。

 おかみさんに呼ばれたのは、10時半頃だ。
 応接室に行った。ノートに退職願を挟んで。
 でも、結局そういう話にならなかった。
 ゆ:「今のように週5日夜遅くまで仕事をすることができません」
 おかみさん:「体調が悪い時は休んでもらっていいですから」
 ゆ:「でも、しょっちゅう休むことになっては、わたしの仕事をほかにフォローしてもらわなくてはなりません。正社員として当てにならないし、責任を果たすことができません。それでは申し訳ありませんから、できません」
 おかみさん:「でも、センセの力が必要なんです。来てもらわないと困るんです」
 うっ・・・
 おかみさん:「病気をすることもありますし、休まないといけないこともあります。誰でも。それはお互い様です。センセにいなくなられたら困るんです」
 頭の中に浮かぶ。
 おかみさんは知っている。マロンさんが9月に手術のために休むか、あるいは辞めることを。
 わたしも知っている。マロンさんのことも、そして、もう辞めると言った陸さんのことも。
 頭の中に浮かぶ。
 残るのは、サリーちゃん、ボクさん。そして、今日なぜか休んでいる、せんちゃん・・・

 おかみさん:「在宅というのは、ちょっとクリアできない問題がいくつかあるので、今はごめんなさい。週に何日かでも来れませんか?」
 あぁ、なんか、負けてる・・・

 ゆ:「・・・3日くらいなら」
 おかみさん:「じゃぁ、正社員から外して日給という形でも、ちょっと9月から何か取らせてもらいますから」
 ゆ:「はい・・・」

 だめだ、負けた。
 必要としてもらってることは、分かっている。それに、わたしはマロンさんの気持ちも、陸さんの決心ももう知っている。
 ・・・知らないふりして退職願が出せない。
  
 彼はきっと言うに違いない。
 『ゆふが被ることじゃないでしょ? 陸さんが辞めるのも、マロンさんの手術も、ゆふが気にすることじゃないよ。会社が考えることでしょ?』
 ・・・はい。たぶんおっしゃる通りです。

 でも、わたしはCADの仕事が好きなんだよ。仕事がつながるなら、けんか別れはしたくない。
 それに、残るひとのコトが気になるし大事なんだよ。会社の体制やもろもろにはちょっとしんどいけど・・・

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 わたしの後で、陸さんが応接室に入って行った。
 出てきた後は普通に仕事をしていたけど、退社時間が近づいた頃、ふと目が合った。
 何となく、分かっちゃうんだなぁ・・・
 『帰れる?』
 陸さんが時計を見て、そのあとわたしを見た。
 『うん。キリつくよ』
 わたしも時計を見て、小さくうなづいた。
 午後6時45分。陸さんがさっさとタイムカードを押して出て行った。
 わたしはあれこれ仕事をした後、午後7時少し前にタイムカードを押して、
 「お先に失礼します」
と頭を下げた。
 駅の階段を下りてホームに着いたら、陸さんがベンチから立ち上がった。
 陸:「どう?」
 ゆ:「そっちこそ」
 陸:「おれ、言っちゃったよ」
 ゆ:「あ、そ。で?」
 陸:「あのさ・・・」

 電車に乗り込んだ。
 話は終わらない。
 毎度の行きつけにドロップして、話した。
 久しぶりにすっきりとおいしいお酒が呑めたのには間違いない、カモ。
 

 
 

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タイミング悪いよ

 昨日の決意が揺るがないうちに、と、今朝電車の中からおかみさんにメールした。
 『本日は出勤します。ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。お忙しいところ恐れ入りますが、お話したいことがありますので、お時間を割いて頂けませんでしょうか』
 かばんの中に昨日書いた退社願が入っている。

 ところが、今日は朝からバタバタだった。
 朝一番、おはようございますも昨日まで済みませんも言えないうちに、突然ボスからノートパソコンを渡され、
 「ソフトを全部インストールして、サリーと一緒にプレゼンに行って来い。すぐ!」
 有無を言わせぬ口調だ。
 「はっ、はい!」
 だけどインストールしている時間がない。
 すぐに会社を出、サリーちゃんが運転する車の助手席で、片道1時間半のうちに忙しくソフト4本のインストールと設定をした。
 プレゼンの効果は・・・上々(^^)v 約一千万円の工事が決まりそうだ。

 会社に戻ったら、もう4時近かった。来客があるとの事で、話しかけられた。
 おかみさん:「メール見ました。打ち合わせの後でいい?」
 ゆ:「はい。いつでもお声かけ下さい」
 ドキドキしながら、1枚図面を描いた。夕べ陸さんが
 『明日来れる? 悪いけど急ぎで1枚頼みたいんだけど、調子どう?』
とメールしてきた物件だった。(わたしが休んでいる間にもボスが『炸裂』していたそうで、陸さんからのメールは毎日downwardrightdownwardrightdownwardrightだった)
 描きながら、どんな順序で話そうかとまたシミュレーションした。

 そして、おかみさんが打ち合わせから戻ってほどなく・・・わたしが声を掛けられる前に・・・また『炸裂』したのだ。
 今現在の標的は、陸さんらしかった。しばらく前は専務、そのあと経理のマロンさん、わたし。わたしへの当たりが最近和らいできたと思ったら、今度は陸さんになったのだ。
 ボスがミーティングと称するその時間の大半は陸さんを責めるもので、本社の社員全員、どころか、専務まで現場から呼び戻してのボスの罵声は、結局4時間も続いた。

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 なんてタイミングの悪い。
 夜10時、結局今日は、おかみさんと話すことができなかった。
 おまけに、なんてタイミングの悪い・・・あの後で、ボスがボーナスの明細を配ったのだ。
 わたし、今日、できたら『辞めます』って言おうと思ってたのに。退職願まで書いてあったのに。
 まさか今日、今日がボーナスの日なんて・・・なんてタイミングの悪い!
 おまけに、
 ボス:「センセ、今からみんなで呑みに行こうよ」
 げっ、嘘でしょ?!
 ゆ:「すみません、まだ本調子でないので今日は遠慮させてください。時間も時間ですし」
 ボ:「そうかぁ! そうだよなぁ、時間も時間だよなぁ! こんな遅くなってよ」
 ボスが大声を上げた視線の先には・・・陸さんがいた。
 ・・・しまった。。。
 ボスはさっさと会社を出て、駐車場に歩いて行った。陸さんが追いかけて行った。
 まさか陸さん、あれだけ非難されて、それでもボスと一緒に呑みに行く・・・?
 と不思議に思ったら、駐車場から陸さんだけが出てきた。
 わたしはほかのスタッフに挨拶して、陸さんとふたりで駅へと向かった。

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 ようやく声が出たのは、駅の階段を上がるころ。それまで、黙って2人で歩いてた。
 ゆ:「ごめんね、助けられなかった」
 陸:「・・・ん」
 ゆ:「途中、陸さんのせいじゃないでしょって思った件に関しては何度か意見したんだけど、ボスを切り崩せなくて・・・結局あなた一人が責められた」
 陸:「口でボスに勝てるひとは、そうそういないし。ましてあなたじゃ、ムリだよ」
 陸さんの過失もあった。そのために会社にマイナスになったことも、確かにあった。ボスの言い分はその時正しかった。でもそれを正せばいいだけだ。それが関係ないことまでどんどん飛び火して、4時間ものあの苦痛。
 ひいき目に見なくても、ボスが陸さんを呼んで間違いを叱って、もし責任を取らせるなら何らかの処分をして、せいぜい30分とかで済むはずだ。こんなふうに夜遅くまで全員を巻き込んで、全員の前で怒鳴り散らして、4時間も引っ張るものじゃないはずだ。
 陸:「あ〜・・・さすがに落ち込んでるな」
 ゆ:「・・・うん」
 電車を降りて、改札を出た。
 陸:「じゃ」
 ゆ:「じゃ。また明日」
 ・・・。

 今日は、彼は出張でいない。
 帰って、いろいろ考えながら、陸さんにメールした。
『ホントにお疲れさまでした。
 わたしは今帰ってきて、とりあえずビールです(- -)/□
 なんと言っていいか・・・いつか陸さんがメールに書いてきた「嫌だ嫌だって気持ちで仕事してたら、『らしさ』なんか出ないよ」という言葉がずーっと心に残ってます。体調はついていけないんだけど、仕事したい気持ちはある。会社を辞める決意はしたけど、仕事は魅力的なので、何らかの形でつなげて行きたいと思う。わたしはこのままで終わらせるつもりはありません。
 今のあなた、すごくつまらない顔して仕事してるよ?
 やりたいことができない不満もジレンマも、分かります。ボスの当たりもきつくて、ずーっと辛そうなのも、見て分かります。
 でも、わたしは頑張れとは言えないけど、やっぱり悔いは残さないほうがいい。
 今のままの状態で仕事してたって、あなたがもったいないと思う。
 辞めようと思ったらいつでも辞められるんだから、思い切って動いたら? やりたいようにやってみたらどう? 辞めるんなら、そのあとにして』
 タイトルは、『気が向いたら読んでね』にした。
 陸さんがもういい加減うんざりしているのは知っている。でも、やるだけやってから、にした方がいいんじゃない、って思って・・・余計なお世話かもしれないけど。

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 メールでなく、電話が鳴ったのは、少し後だ。

 ゆ:「はーい。まいどっ」
 わざと明るく出た。
 陸:「あぁ・・・。今日はかなり落ち込んだからさ、メール無視しようかとも思ったんだけど」
 ゆ:「あら。無視しなかったの?」
 陸:「まさか、ああ書いてくるとは思わなかった」
 声が笑っていた。勢い良くしゃべっていた。
 陸:「励まされるなんてね」
 ゆ:「予想外?」
 陸:「うん。逆に吹っ切れた」

 ・・・え。

 陸:「おれ、今、そこまでここで頑張る気、ない。さっきは駐車場にボスを追いかけてって、『あそこまで言われてボーナスなんてもらえません』って返しに行ったの。受け取ってくれなかったけど」

 そうだったんだ。

 陸:「ごめんな。おれ、明日、おかみさんに話しに行くよ」

 ゆ:「え? 何を?」
 陸:「もうムリですって」

 ・・・ちょ、ちょ・・・

 ゆ:「ちょっと待ってよ! わたしが今日、おかみさんに話す時間割いてくださいって頼んだのよ。でも今日話せなかったから、明日に持ち越しなのよ」
 陸:「あーあ。タイミング悪いな。明日ふたり連続だ」
 ゆ:「考えを変えて、少しずらす気は?」
 陸:「もうないよ」

 ・・・。

 ゆ:「あ、そ・・・じゃ、明日」
 陸:「はい。明日、頑張りますか」
 ゆ:「・・・まぁね」

 えぇい、仕方ない!
 めいめいが決めた事だ。
 今はお互いに、止める気はない。 
 

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